マムートを彩る赤と緑と金色に光るショーウィンドーを眺めながら、僕は腕を組んで立ち尽くしていた。旅の途中に滞在したこの商業都市は、ちょうどいいことにクリスマスシーズン一色に染め上がっていた。厳しい戦いと逃亡生活の中で、わずかな憩いを取るために滞在期間を先延ばしにしようと提案したのはアンジュで、僕も賛成した。 なんだかんだ言って、みんなプレゼントをされるのが好きだからだ。好感度アップにはうってつけ。クリスマスなら、自然とプレゼントを渡すことが出来る。逃したくないイベントだった。ここまでなら、クリスマスありがとう! と諸手をあげて喜ぶことが出来るのだけれど……。 さしあたっての問題は、特別なプレゼントを渡したい人物が二人いるということだ。 イリアとリカルド。どちらも、僕にとっては大切な人だ。もちろん、他の仲間たちも大事な人たちだけれど、二人の場合は意味が違って来る。 すなわち、恋愛関係上においてどちらを優先すべきかということだ。 そう、僕は二股をかけていた。 最初は自覚がなかった。イリアのことは最初に出会ったときから好きだった。イナンナの生まれ変わりという条件をのぞいても、今はイリアはイリアだから好きなのだと胸を張って言える。イリアも僕のことを悪からず想ってくれていることは分かっていた。僕と彼女の恋は、少しずつ、ゆっくり進んでゆくものだと疑っていない。 友情以上恋愛未満。彼女とすごす時間は、染みひとつない真っ白なシーツにくるまれるように、清潔で、楽しくて、穏やかだった。 リカルドのことは、何がきっかけだったのか分からない。憧れや尊敬が好意に変わったのかもしれない。それとも、ちょっと弱い顔を見せたら簡単に揺らぐ彼が面白くて、からかっている内に愛着が芽生えたのかも。彼の保護欲をくすぐるのはとてもたやすいことだった。僕の見た目もおおいに利用させてもらった。つくづく、僕って最低なやつだ。 しかし、内心に抱えているものはどうであれ、彼の懐で眠る時間は僕に安らぎをもたらした。親元からいきなり離されたんだ、甘えたくなったって当たり前でしょ? イリアは可愛いし、リカルドは格好いい。不義だと分かっていても、どちらかを選ぶことなんて僕には出来なかった。だって、両方好きなんだから。 「ううう〜ん……」 僕は腕を組み直し、深く思い悩んだ。 今日中にはクリスマス・パーティが開かれる。皆で仲良く晩餐の準備をした後に、ささやかな贅沢し、プレゼントを渡す運びだ。パーティ用のプレゼントはすでに購入してある。キャラメルを包んだささやかなものだ。こういう、清貧って感じのするもののほうが、僕のイメージに合っているし、誰に何を贈ろうか迷っていたら時間がなくなっちゃって、とでも言い訳すれば、みんなが笑顔になるからね。 問題はその後。イリアとは一歩前進のため、リカルドには普段イリアに一途な体を取っていることのフォローを兼ねて、なんとしても特別なプレゼントを渡したい。 普通に渡せばいいじゃないかと思うかもしれないが、それでは上記の”かわいくて優柔不断なルカくん”作戦が使えなくなるし、その場で開封されたら全てがお終いだ。イリアがリカルドへのプレゼントを見たらどう思うだろう。少なからず不審を抱くにちがいない。 いくら彼女が純粋で鈍感だからって、危ない橋は渡らないに越したことはない。 二股をかける以上、リスクは全力をかけて回避すべきなのだ。 だって、バレてしまえば、全てお終いなんだから。 それに、イリアのことはともかく、リカルドのことは、他の仲間たちに気取られるわけにはいかない。純朴で売っている僕のイメージダウンにつながることは全力で避けたい(本当に、僕って最低だなあ。反省はしないけど)。 プレゼントを渡す順番についても考えものだ。イリアが先のほうがいいか、リカルドが先のほうがいいか。譲渡する瞬間をどちらか一方に見られたらアウト。後ほど話題に上ってもアウトだが……都合のいいことに、イリアは照れ屋だし、リカルドは大人だ。率先して見せびらかすようなことはするまい。 だからこそ、渡すタイミングで雌雄は決するのだ。何の雌雄かは僕にも分からないけど。 イリア、リカルド、どちらにも満足してもらい、なおかつ関係を崩すような事態にはしない。これは僕に課せられた義務である。 さしずめ、本妻と不倫相手の間での振る舞い方で悩む社会人のようだ。若干15歳でこんな悩みを抱えることになるなんて、僕ってもしかしたら魔性の男ってやつなんじゃないか。 とにかく、悩んでいても始まらない。僕は店に入ると、イリア用に白薔薇の髪飾りを、リカルド用にひげそりを購入した。もちろん、二人の性格を考慮してのチョイスである。イリアはこんなもの恥ずかしがって人前で付けないだろうし、ひげそりにいたってはリカルドが自分で新品に買い替えてもおかしくない。 それに、考えてもみて。部屋の片隅に僕からのプレゼントを置いて、たまに控え目に眺めやり、もしくは視界の端に入った瞬間、そっと微笑んだり顔を赤くする僕のハニーたちを。素晴らしいじゃないか。 今のところは、完璧である。僕は奇麗に包装されたプレゼントたちをポケットの奥に隠し、来るべき決戦と、その後に流れる甘い時間のため、足に力をこめて歩き出した。 |