We are THE バカップル12
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先頭を行くアニーミが、どしどしと、アスファルトを踏み抜かん勢いで歩いている。
俺は彼女の背中を眺めながら思った。
ロードローラーの横にアニーミを加えたら道路整備コストの削減になるだろうな、と。

「お〜っし!ジャンッジャン行くわよ!
どんな敵が出てこようと打ち倒すのみ!
作戦も考えとかなきゃね!とりあえずリカルド!
あんたが壁!鉄砲玉!私たちの盾になんのよ!」

断る。鍋の蓋でも持って来たらどうだ?
多分、その程度で防げる攻撃しかしてこないぞ、その敵とやらも。

「んであんたがやつの攻撃をひきつけている間に私とエルが二手に分かれて飛び出すの!
素早さを生かして左右から挟撃するのよ。それがいいわ!いい段取りね!
敵の陣が崩れたところで、そう、あんたよ、あんた。
瀕死のリカルドが最後の力を振り絞って敵を討つ!
うん、我ながらナイスな作戦だわ!」

「うんうん、ええなあええなあ。王道やんなあ」

ラルモが嬉しそうに同調した。
もちろん、戦闘が終わった後はザオリクやらレイズを使ってくれるんだろうな?
お前らのどっちが僧侶だかは知らんが。



アニーミ隊長率いる俺たちミルダ捜索隊は、ひとまず地図にあった場所へ向かっていた。
ご丁寧に赤丸で囲まれたそこは、地図いわく、秘密基地と銘打ってあった。
付近の地理から考察するに、徒歩でも十五分とかからないだろう。
妙に丁寧な地図で、近場にあるコンビニの位置まで事細かに記されていた。
この地図を作った人物は多分A型だろうな。
メジャーな占いの中でも特にカテゴリーに乏しい人間分別法で分けるなら。

そうそう。ベルフォルマがスーパーに訪れたあの事件。
あれも偶然ではないことが分かった。
彼から渡された手紙に、こんな文句が書かれていたからだ。

”聖なる戦士が全員そろわないと、ハルトマンを返してやらない。
戦士の二人はスーパーにいるから、迎えに行け”

ハルトマンというのは、彼の面倒を見ていたと言う老人に他ならないだろう。
別段気がかりだったわけではないが、辻褄があってすっきりした。
これがアハ体験というものか?……違うか。
しかし、それとは別に、俺はある一文が気にかかっていた。

(スーパーにいる聖なる戦士は二人?)

アニーミが聖なる戦士の一人であることは、手紙を寄越されたことから間違いがない。
では、もう一人とは?俺のことだろうか。それともラルモ?
後者のほうが、可能性は高そうだ。
なにせ、ヒーロー物の主人公は少年少女のほうがふさわしいからな。
しかし、俺はなぜかてっきり、この文面を読むまで、
俺、アニーミ、ラルモの三人で聖なる戦士だと思いこんでいた。

(誤植か?)

可能性はある。
なにせ、こんな怪文を寄越す人物だ。文章に意味があるのかも疑わしい。
…いや、別に俺が聖なる戦士じゃないことが、不満なわけじゃないが。


ともかく、俺たち聖なる戦士予備軍は、地図の場所に向かってだらだらと歩いていた。
名目上はラルモの歩幅に合わせていることにしているが、ただ単に走るのがめんどくさいだけだ。
この暑い中、青春映画さながらに走る気になれるやつは俺達の中にいなかった。
車を出すことも考えたが、まだ昼に口にしたアルコールが残っているかもしれず、
こんなことでせっかくのゴールド印の免許証を失うのは遠慮したいため、口に出さなかった。
わざわざ車両保険の保険料が上がるようなことをするつもりはない。

そして、妙にやる気にみなぎっているアニーミ軍曹殿の導きに従い、こうして道を歩いている。
もっともその上官殿は、軍曹お付きの少年兵のようなラルモと、
先ほどのような会話をしながら適当に歩いているだけで、実際に地図を見ているのは俺だ。

おい、そっちじゃない。右に曲がれ。勝手に先に行くな。



どれぐらい歩いただろうか。
ブレーキをかけると爆発する暴走バスことアニーミを慎重に運転、もとい正しい道に導くと言う、
「スピード」のキアヌ・リーブスのような技を駆使したところ、前方に、見覚えのある姿を見つけた。
思わず全身から力が抜ける。お前…。

「あっ。あんた」

俺の十歩先を歩いていたアニーミが、いまさらその人物に気付き、立ち止まった。
目標物以外は目に入らない性格をしているのだろう。

「ほえ?なんなあ?」

ぼさっとアニーミの後ろを歩いていたラルモが、彼女の背にどんっとぶつかった。

「げっ!」

ヘルメットをかぶった人物が、うなだれた背をびくっと真っ直ぐに伸ばした。
顔は隠れていたが、その人物が跨っているバイクには嫌というほど見覚えがある。
つい十分ほど前に見たばかりだからな。

「げっ、じゃないっつの。
なによあんた、先に行ってたんじゃなかったの?
こんなとこで何やってんのさ」

アニーミが腰に手をあてて、首を傾ける。
見えずとも分かる。
いかにも楽しげな顔をしていることだろう。

「な、何って…、お前らを待ってたんだよ。悪いか?」

「でも、これ以上うちらのペースに付き合ってられへんー、とか言うてたやん」

「気が…変わったんだよ。
ていうか?普通に考えて、お前らだけじゃ頼りないだろ?
だから、付いてって、やろうかと、思って…」

しどろもどろにベルフォルマが答えた。
俺はアニーミたちに追いつき、ベルフォルマから受け取った手紙を顔の横で揺らした。

「迷子の言い訳にしては、高尚なことだな」

一瞬、俺を見上げた女子二人組の視線が、ばっとベルフォルマに集中する。
はい、3・2・1。

「ギャハハハハハハハハハハッ!なにそれ!?ださっ、ださっ、だっさぁ〜!
マジありえね〜!ほんとに!?ねぇアンタそれほんとに!?マジなのぉ!?」

「プッ…にゃははははは!あかん!そらあかんで兄ちゃん!
あないカッコよお出てってそのオチはあかんて〜!」

涙目になって爆笑する二人を前に、当のベルフォルマも涙目になっていることだろう。
ざまあみろ。俺の靴を踏んだ返礼だ。

「う…うるっせぇ!地図がないんだからしょうがねぇだろうが!
お前らはすらっと地図見ただけで覚えきれるか!?覚えられねぇだろ!」

「はいはい、言い訳はいいからさ〜、そのヘルメット取ってくんない?
いい年して迷子になっちゃってる男の子の顔を見せて欲しいな〜、イヒヒヒヒヒ…」

「あ〜、ここ半年ぐらいで一番わろたわ。なん?兄ちゃん、実は天然なん?天ボケなん?」

俺はぷるぷると拳を痙攣させ始めたベルフォルマが、ブチギレて人身事故を起こす前に、
三人の間に割り入っておいた。
”暴走バイク少年、高校生(15)と中学生(13)を轢き殺す!”
なんて見出しが載る朝刊は朝方でなくとも目にしたくはない。

「まあまあ、それぐらいにしとけ。
今はそんなことでジャレているひまはないだろう」

まあ俺が切り出したことなのだが、そこは目をつむってもらおう。
アニーミとラルモはまだニヤニヤしながら、ベルフォルマを見ていた。
そしてベルフォルマは肩身がせまそうに縮こまりながら、俺へ注目した。
なんだ、そんなに恥ずかしかったのか。
しかし、まあ…

「とにかく、ベルフォルマ。お前も一緒に来い。地図は一つしかないんだ。
お前に地図を渡して、今度は俺たちが迷ってもしようがない。異論はないな?」

便乗して皮肉の一つぐらいは、許されるだろう。
ヘルメットの下から、歯噛みする音が聞え、
少しだけ、いやかなり、胸がすくう気持ちだった。

あぁ、大人げないさ。



そして、元の三人に、イノセンスライダーこと迷子ライダーベルフォルマを加えた
俺たち四人組は、空き地へ辿りついた。
ここらでやっと時系列的に、あそこへ立ち返ることになる。
あそこがどこだって?あそこはあそこだ。
あの、夕暮れの空き地で、すっとんきょうな男女四人組+アルファと対面したときだ。
その前に、説明しておかなければならないことがあるだろう。
そう、あの時にいた登場人物が、一人足りないことに、お気づきだろうか。

その人物は、目的地にたどり着く寸前に出てきた。
空き地の手前側、つまり俺たちとは逆側の道からやってきたのだ。
そして、俺の姿を見つけて、嬉しそうに顔をほころばせた後、
俺以外の三人の姿に気付いて目をまるくした。
しかしそれでも、俺以上に驚いていたとは思えない。

「リカルド、イリア。どうしたの?そんな大勢で」

そいつは、イラ付くほどのほほんと、そう言った。



ルカ・ミルダが、そこにいた。


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