We are THE バカップル15
15


そんなこんなで、悪者ンジャーとの第一次抗争とやらの日がやって来た。
先だって言った通り、時間も場所も知らされていない。
しかし、俺はラルモの言っていた通り、午後から夕方の間に現れるだろうと予測していた。
他ならぬラルモの言ったことだ。そう見て間違いないだろう。
俺とラルモ以外の三人も、そう考える方が精神的健康上よいと思ったのか、
各々で昼飯を終えた後、とりあえずいつもどおりに俺の家に集合することになった。




さて、熱い熱いとうるさい客たちの要望にしたがって、電気代と引き換えに冷風を吐き出す
クーラーのおかげで大分快適になった居間の中に、俺たちはいた。
暫定イノセンス戦隊――ミルダ、アニーミ、ベルフォルマ、ラルモ、俺――
の五人だけではない。
+αと言うべきか、いや、そう言うには濃すぎる顔ぶれが、
そんなに広くもない家の中にひしめいていた。


ほかならぬ、悪者ンジャーの四人組である。


先日見たものと全く同じ扮装を身にまとっている。
机や椅子などといったものを一切排斥した――
ちなみにその家具類をベランダまで運び出したのは俺とミスター毒物とブラックパピヨンなのだが、
――ともかく。
ちょっとしたプロレス大会なら出来そうなぐらい閑散とした居間の中に、彼らはいた。
といっても、悪の幹部らしく紫の電光を弾かせながらいきなりテレポートしてきたわけでもなく、
もちろんご大層なメカに乗って窓ガラスを突き破り飛び込んできたわけでもない。

質問しようか。普通の人間ならば、他人の家にどうやって入ってくる?
一番スタンダードな手段を思い浮かべて欲しい。考えるまでもない問題だ。

そう、彼らは普通に、玄関から入ってきたのだ。





「あ〜イラつく!私、待つって行為が一番嫌いなのよね〜!
時間の浪費もはなはだしいわ!」

アニーミが居間に飾られた時計を忙しなく見上げながら、
ジョッキに注がれたカルピスをぐびぐび音を立てて飲み干した。
そして、どん、と机の耐久年数が一気に減りそうな勢いで、ジョッキを机にたたきつける。
アル中の親父が、「おい、酒を買って来い!」というお決まりの台詞とともにやりそうな仕草だ。
一応抗争の日ということになっているのでゲーム大会は自粛しているらしく、
室内で何をするかというとゲームという現代っ子な若者四人組は、ヒマをもてあましていた。

「まあまあ、イリア。まだ一時じゃないか。焦るような時間じゃないよ。
手紙には今日って書いてあったんだし、今日中には必ず来るって。
とにかく、落ち着いて待とうよ」

そんなアニーミを、日常の八割においてはまともなことを言うミルダがなだめる。
残りの二割が激しく問題なのだが。主に俺にとって。
そんなミルダの横で、イライラと足を揺らしながら、すりガラスに寄りかかっている
ベルフォルマが、ベランダの外を不機嫌そうにジロリとうかがった。

「とは言ってもよ、所詮悪の集団が言うことだろ。アテになんねぇぜ。
こうして家の中でじっとしてんのも退屈だし…、
いっそバラけて街中を探しにいったほうが早いんじゃねぇか?」

その前で、大人しく座布団に座って机に頬杖をついていたラルモが、手を上げた。

「あっ、それはよくないと思うわ。
あちらさんは集団で行動しとるやろし、もし一人でいるとこ囲まれたら勝ち目ないで。
うちは、ここで待ってるのが一番ええと思う」

「同感だな」

俺はアニーミとベルフォルマが言い返す前に、ラルモをフォローすることにした。

「手紙に場所と時間を書かなかったのは、やつらにもそれ相応の考えがあるのだろう。
間違いなく、あいつらから何らかのコンタクトを取ってくる」

これだけではちょっと弱いか。もう一声。

「それにな、考えてもみろ。
こうして俺たちを苛立たせ、バラけさせるのが策だったとしたらどうする。
わざわざ策略にはまってやる必要もあるまい。俺たちは、ただ待っていればいいだけだ」

「ケッ、んなこた分かってんだよ。けどよぉ、いても立ってもいられねぇってか」

「そうなのよ〜!正義のヒーローの仕事がただ待つだけってのがシャクなの!
そんなの全っ然ヒーローらしくないじゃない!」

女三人集まればかしましいと言うが、アニーミとベルフォルマが二人そろうとやかましい、
のほうを、俺は国語辞典に登録して欲しい。
しかし、そのやかましいこと山のごとし二人も、俺の言葉に一応の納得を見せたようだ。
再び、いらだった目で時計を凝視する仕事に戻った。時給600円。

ふと、ラルモが、時計を見るふりをして、俺の顔を見た。
俺にしかわからない程度に、わずかに頭を揺らす。会釈のつもりだろう。
俺は心の中だけで返答した。

別に、礼などいらん。お前がそう言うからには、そうなんだろう?



それから三十分が経ったころ。
場はいよいよ煮詰まっていた。あのラルモですら、少し不安気な顔をしている。
しかし問題なのは、件の二人組みだ。
緩衝材を入れ忘れた割れ物注意の宅配便よりも堪忍袋の緒が切れやすいアニーミ火山と、
それに連動したベルフォルママントルが今にも地殻変動を起こしそうな苛立ちを見せていて、
俺はやつらをどうなだめて地球こと俺の自宅を守ろうか思案している最中に、その音は鳴った。
チャイムの音だ。

のんびりとテレビを見ていたミルダとラルモが俺を見上げる。
今にもディープ・インパクトを起こしそうな気配のアニーミとベルフォルマが、
俺のことをカラオケで一人で連続10曲予約する人間を見るような目で睨んだ。

言いたい事は分かる。空気読め、だろう。
最近ではKYと言うらしい。
知るか。


俺はため息混じりに、ひまつぶしに端から端まで読み込んでいた新聞を机に置いて、
実家の家族が仕送りをしてくれたか、とか、ミルダがまた通販でくだらんものを買ったか、
など、ここ数日に宅配便のお世話になることをしたかどうか思い出そうとしていた。
今日はもちろん、家に誰も呼んでいない。呼ぶようなやつもいないが。

――ハスタでなければいいのだが

ベルフォルマとハスタが顔をあわせるのは、うまくない。
いや、あいつのことだ、ミルダやラルモはともかく、
アニーミとも根本的に馬が合わないだろう。
アニーミの逆鱗に触れるどころか、逆鱗の隙間にピンポイントで指を突っ込んでまさぐるぐらいの
発言はしてくれるに決まっている。

俺は、チャイムを鳴らした主がハスタならば即刻追い返そうと心に決めながら、
ドアを開いた。

しかし、それがそもそもの間違いだった。
俺は無防備にも、チェーンも掛けずにドアを開いてしまったのだ。
いや、せめてのぞき穴から一瞬でも外をうかがえばよかった。

そうすれば、こんな事態にはならなかっただろうし、
なったとしても、心の準備ぐらいは出来ていただろう。




「天を統べる覇者の証!魔王灼滅刃ッ!!!」

チャイムの主を出迎えた俺がもらったものは、魔王灼滅刃、もとい竹刀の一撃だった。
俺が食らったものではなければ、そのあまりの景気いいスパァンという見事な快音に、
心の中で拍手でもしていただろう。
瞼の裏に無数の星たちがきらめく。


「フハハハハ!待たせたな、イノセンス戦隊!我らが宿敵どもよ!」


今が深夜であれば、翌日マンションのエントランスの掲示板に
”リカルド・ソルダートさんの部屋から騒音がありました。注意してください”
と張り紙が張り出されるであろう大音声が響く。

俺は割れそうな脳天を押さえながら、怒号の主を睨んだ。

「貴様、いい加減にしろっ!アス…」

「狼の群れに放り込まれた子羊のごとく脆弱な貴様らよ!
諸君らを蹴散らすのは我らにとっては他愛もないこと!
しかし、今日はそんな貴様らと対等に戦うべく、うってつけの勝負を用意してきた!
我らの恩情を受け取れいっ!!!!!」

俺の抗議はドでかいバリトンによって掻き消されたあげく、ブラジルまで吹き飛んだ。
声の主は、言わずと知れた、甲冑男こと、阿修羅大魔王である。
大魔王?ふざけるな。お前など、大ノロケ野郎と呼んでやる。

長い銀髪をたなびかせたその大ノロケ野郎は、
俺を苛む頭痛の生みの親こと黒塗りの竹刀を肩に立てかけ、不敵に笑った。
しかし、その後ろ。
阿修羅大魔王の後ろにひかえるミスター毒物とブラックパピヨンが持っているものを見て、
俺は思わず、怒りを忘れてしまった。



まず目に入ったのは、ドクター毒物が両手いっぱいに抱えているものだ。
ヘルメットの頭上に、消防車に付いていそうな赤いランプがついている。
それも、五つ以上はあるだろう、全てのヘルメットの上にだ。
そして、そのランプからは細長いコードが長く伸びていて、
ブラックパピヨンが持っている箱の中に続いていた。

箱の中から見え隠れする物体の形状を、なんと言って伝えればいいか。
それは、男の拳より少し大きく、球体を半分に切り落としたような形状。
安定性を持たせ、床や机などに設置しやすいようにしてあるのだろう。
プラスチック製のそれは今は灰色で……、
えぇいめんどくさい。
つまり、”ピンポン”だ。正式名称など知らん。
それは、押すと”ピンポン”と聞き覚えのある音色を奏でるであろうスイッチだった。
そのスイッチを押すと、ヘルメットについているランプが点灯するに違いない。



阿修羅大魔王こと大ノロケ野郎は、人様の玄関の中央で、誇らしげに仁王立ちしていた。
ビシッ、と効果音がつきそうな勢いで竹刀を振り下ろし、その切っ先を…、
騒ぎを聞きつけて駆けつけたミルダたちに突きつけた。



「クイズで勝負だ!」




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