We are THE バカップル6



例の三日後、つまり、ハスタとスパーダの小競り合いから二日後で、
ミルダが授業中に怪我をした二日後でもある日――えぇいめんどくさい。
つまり、”告白の日”だ。そう呼ぶのが一番わかりやすいだろう。
ミルダはご丁寧にも、カレンダーのその日の日付に、”告白の日”とマーカーしている。
そう、その日はまさに、”告白の日”だった。
言っておくが、俺はキリスト教徒ではない。
宗教的な告白ではなく、もっと通俗的な告白を、その日、俺はされた。



その”告白の日”は、俺にとって、もう一つの意味ある日付だった。
イノセンス学園の講師を終了する日だ。
俺は生徒たちが作成した作品に、気持ち分友好的な点数を与え、
採点表を美術担当の教師に渡し、全ての業務を終える手はずだった。
俺は点数表のアニーミの欄に35点を入れておいたあと、簡単な別れの挨拶をした。
教壇の前で、当たり障りのない挨拶を言い終えた瞬間、チャイムが鳴り、最後の授業が終わった。
俺は女子生徒のグループが渡してくれたかわいらしい便箋の束をファイルに挟みながら、
職員室に向かおうと扉に手を掛けた。

「先生」

扉を半分開けたところで、ミルダから声をかけられた。
各々片づけを始める生徒たちから離れて、俺に歩み寄ってくる。
きょろきょろと周りを気にしながら、小声で俺に話しかけてきた。

「あの、今日なんですけど、空いてますか?」

「あぁ、一応な。どうした?」

ミルダは安堵したように、よかった、とつぶやいた。

「相談したいことがあって」

「俺にか?」

俺は、少し驚いた。
進路や人間関係の相談なら、他の教師にでもすればいいだろうに。
一週間しか親交がない、しかも、もうこの学校に来ることもないだろう俺に相談をするのは、
適当ではないように思えた。
しかし、ミルダはしっかりと頷き、

「リカルド先生じゃないと、駄目なんです」

と言った。
俺は多少いぶかしんだが、それ以上質問しなかった。ミルダがそう言うなら、そうなんだろう。
もしかしたら、彫刻に関することなのかもしれない。
そういえば、保健室の帰りに、日を改めて言いたいことがある、と言っていた。
そのことだろうか。
俺はうなずいた。

「わかった。放課後に迎えに行くから、正門の前で待っていてくれるか」

ミルダは嬉しそうに笑って、ありがとうございます、と深々と頭を下げた。

「じゃあ、放課後に」

そう言うと、自分の席に戻って片づけを始めた。
俺は職員室に向かいながら、放課後までどうヒマを潰そうか考えていた。





俺は業務を終えて、教職員たちに挨拶をしてまわった。
特にオリフィエルは、寂しくなる、と言って別れを惜しんでくれた。
その後、俺は結局、車をまわして本屋へむかった。
適当に目に付いた本を買って、学校近くの喫茶店で時間を潰すことにしたのだ。
喫茶店でコーヒーを頼み、本を広げて数十分経ったころ、古めかしいカウベルが鳴った。
客が来たのだろう。出入りが激しい喫茶店ではないが、もちろん他の客も来る。
しかし、新たな来店者は、迎えをするウェイトレスを無視して、俺のほうへ歩み寄ってきた。
俺は顔を上げた。二人の少女が、俺のテーブルから少し離れたところに立っていた。

「チトセ、見てみろ。我が校の臨時講師だ」

ブレザーを着た少女が、腕を組んだまま、俺のほうへ顎をしゃくった。
かたわらの私服の少女が、忠犬のように彼女に付き従っている。

「マティウス様にご師事をしていらっしゃる方ですか?」

忠犬女が控えめに問いかけた。
おい、聞いたか。様ときた、様と。

「いや、私のクラスは違う者から教えを受けている。
版画だったかな。そこの彼は彫刻を教えているのだよ」

マティウスはそう言うと、イナンナに瓜二つの顔に微笑を浮かべた。
もっとも、イナンナより十歳は年下なので、相応の幼さは持っているが。
彼女のことは、一週間しか学園に居なかった俺でも知っている。
俺は眉を寄せた。


マティウスは、有名だった。
イナンナの妹ということ、姉譲りの稀有な美貌がめずらしがられていたこともあるが、
もっともたるところはその素行だ。

中学のころからバンドを――確か、アルカとかいう名前だったか――
をやっていて、特に女子生徒に人気があった。
それだけならまだいいが、アルカには熱狂的なファンが多く、
一種宗教めいた様相を呈しているそうだ。

今、横にはべらせている女性もファンのひとりなのだろう。
古風な顔をした美少女だったが、眉がほとんどなく、
歌舞伎のように瞼に赤いアイシャドーを塗っている。
服装も個性的で、和風をアレンジしたものを着ていた。
俺は、この喫茶店の代金は彼女が払うことになるのだろうな、と思った。

「元臨時講師だ。今日で任期を終えた」

俺がそう答えると、マティウスは、あからさまに興味がなさそうに、ふぅん、とだけ答えた。
俺は少しとまどっていた。
マティウスと会話を交わしたことなど、もちろんない。
せいぜい廊下ですれ違ったぐらいだ。
マティウスが俺の顔を覚えていたこと自体が不可思議だった。
その上、わざわざ俺に話しかけてくるとは、想像もしなかった。

「授業はどうした。まだ五時間目だろう」

俺がそう聞くと、マティウスは嘲笑めいた笑みをうかべた。

「教師どものつまらん授業で時間を浪費するつもりはないのでな。
安心しろ。出席日数は足りている」

マティウスはそう言うと、長い髪を優雅な仕草で肩から払った。
尊大な態度だが、チトセと呼ばれた女性はそんな彼女の一挙手一投足にウットリしている。
俺は目を細めた。

「俺になにか用か」

「ほう。用がなければ話しかけてはいけないのか。
チトセ、我が高校の元臨時教師は、ずいぶんと生徒に冷たいらしいぞ」

「マティウス様に冷たくするなど、許されないことです!」

チトセが両手の拳を握り締め、俺に鋭い目線を向けてきた。
……勘弁してくれ。
俺のうんざりした空気を読み取ったのか、マティウスが高らかに笑った。

「冗談だ。お前、名はなんと言ったかな。リカンドだったか」

「リカルドだ」

「ではリカルド、ルカ・ミルダを知っているか」

俺は目を細めた。

「ミルダがどうした」

「私は、ルカ・ミルダを知っているか、と聞いているのだ。
質問に質問を返すのは、感心せんな」

マティウスが、形のよい顎をそらして、馬鹿にするような笑みを浮かべた。
どんな育て方をすればこんな高校生ができあがるのだろうか。
俺はともかく、早く会話を終わらせるために、質問に答えることにした。

「知っている」

「やつとなにか、約束をしなかったかね」

さすがに怪訝に思った。
していることはしているが、なぜマティウスがそのことを訪ねるのだろう。
第一、ミルダとマティウスが知り合いだったということ自体が信じられない。
アニーミといい、あいつは気の強い女が大好きな性質なのだろうか。
マティウスが、とん、とん、と組んだ腕を華奢な指先で叩いた。

「リカルド。答えたまえ」

「しているが、それがどうした。なぜお前に答えねばならん」

俺が答えると、マティウスは何か考えるように視線を上に向けて、そうか、とだけ言った。
それから、チトセの肩に腕を回すと、さっさと背を向けて歩いていってしまう。

「おい」

俺はマティウスを引きとめようと、声をかけた。
マティウスが肩だけ振り向いて、わずらわしそうに目を細める。

「なんだ」

「質問の意図はなんだ。なぜ俺にそんなことをたずねる」

「ルカ・ミルダに訪ねてみたらどうだ。これから会うのだろう。
私としては、それだけ聞ければ十分なのでな」

マティウスはそれだけ言って、再び歩き出した。
チトセが、肩に回された腕を恥ずかしげに見ながら、
違う店にするんですか?と問いかけている。

「邪魔者がいるのでな。もうよい時間だ。昼にしよう。
チトセ、焼肉が食べたいのだが、連れて行ってくれるかな」

「はい、もちろんです!マティウス様にお気に召していただけるよう、
とびっきり美味しい焼肉屋さんにご案内いたします!」

そうして、二人は去っていった。
俺はチトセなる少女の財布の中身が心配になると同時に、呆然としていた。





それから、俺は数時間ほど喫茶店で時間を潰し、学校に戻った。
マティウスの言ったことが気になって、ろくに読書にも集中できなかった。
車を転がしながら、さきほどの喫茶店での会話を思い出す。

(さっぱり意味が分からん)

不可解極まりない現象だ。
あの変わり者の少女が、なぜ俺とミルダの約束を気にしなければならないのだ。
正門の前にたどり着いたとき、下校する生徒の群れの中に、ミルダの姿を見つけた。
学生鞄を持って、そわそわと辺りを伺っている。
俺は正門の前まで車をつけると、ウィンドウを開いた。

「ミルダ」

「あ、先生」

ミルダが俺の車に駆け寄る。

「そっか、先生、車通勤だったんですよね。歩いてくるのかと思ってた」

周囲の生徒たちが、何事かとこちらを見ていて、居心地が悪い。

「さっさと乗れ」

「あ、はい。失礼します」

俺がそう言うと、ミルダは後部座席のドアを開けて、車内に入った。
シートの端に腰かけて、ドアを、よっこらせ、と掛け声をあげて閉める。
それを見届けて、俺は車を発進させた。

「なぜ助手席に座らん」

「え?」

俺がハンドルを回しながら言うと、ミラーの中のミルダの目がまるくなった。

「あ……そっか。普通そうですよね。人の車なんて、乗ったことないから。
家族で出かけるときは、母さんが助手席だったし」

それに、とミルダは恥ずかしそうにうつむいた。

「先生の隣、緊張するから」

そう言ったミルダはそれでも十分緊張しているようで、
膝に乗せた学生鞄の上で、落ち着きなく指をいじっている。
俺は、そうか、とだけ答えながら、学生でごった返す道を避けて、一つ向こうの車道に出た。

「どこがいい?」

「え、なにが…」

「話をする場所だ。俺は別にどこでもいい」

俺が言うと、ミルダは言葉につまった。
そこまで考えていなかったようだ。

「出来れば、落ち着いて話せるところがいいです。
喫茶店とか…あ、先生の家とか。近いなら」

喫茶店。その単語に、先ほどの記憶がよみがえる。
今頃焼肉をつついているだろうマティウスが、気まぐれを起こして
あの場所に戻ってこないとも限らない。

「俺の家でいいか。数十分で着く」

「あ、はい、もちろんです」

俺はマティウスのことを思い出して、苦々しい思いでいた。
出来れば二度と会いたくない種類の女だ。あいにく俺はマゾじゃない。

――マティウス。そうだ

俺は先ほどの出来事を、ミルダに問い忘れていることに気付いた。

「今日、マティウスという女子生徒に話しかけられたんだが」

ミルダが、あきらかに動揺して顔を上げる。

「え、どこで?」

「喫茶店。お前と今日、なにか約束をしなかったかとたずねてきた」

「あ、あ〜…」

口ごもるミルダを、俺はミラーごしに眺めた。
顔を赤くして、口の中で、何か悪態を付いているのが見えた。

「正直に言うと…」

気まずそうにミルダが切り出す。

「ちょっと、相談をしてたんです。その…先生のことで」

「俺のこと?」

「はい」

ミルダは、素直に頷いた。
なぜ、俺のことをマティウスに相談する必要がある。
よりによって、あのマティウスに。
俺の怪訝な表情が見えたのか、ミルダが慌てて手を振った。

「あ!別に悪口とかじゃないですから」

「分かっている。なんで、マティウスなんだ。俺のことを相談とは、なんだ」

「マティウスじゃなきゃ駄目だったんです。
なんていうか…彼女ぐらいしか、分かってくれないかなって。
相談の内容は…すみません、今は言えません。あ、でも、後でちゃんと、説明します。
その…僕の話を、聞いてくれた後に」

ミルダはそう言って、もう一度、ごめんなさい、と頭を下げた。
気にはなったが、後で分かることなら、無理矢理に聞きだすことでもない。
ひねくれた用件でないといいのだが。
特に金のことだ。金のことがからむと、ろくな話になりはしない。
父親の連帯保証人になってくれ、などという話題じゃないだろうな。
俺は半ば本気でそう訝りながら、自宅へ車を進ませた。



マンションの自宅の中で、俺は茶を沸かしていた。
ミルダはといえば、つい二日前にハスタが座っていた座布団に腰を下ろしている。
姿勢を正して、テレビもつけずに行儀よく座っていた。ハスタとは大違いだ。
俺は急須と湯飲みを手に、テーブルに戻った。

「で、話とはなんだ」

俺はほうじ茶を注ぎながら、早速そう切り出した。
珍しそうに茶を眺めていたミルダが、顔を上げる。

「あ、はい。でもその前に」

ミルダが、ぴしっ、と効果音が付きそうな仕草で、掌で制した。
俺は少し驚いた。妙に強気な仕草だった。
ミルダは深呼吸をした後、顔つきを引き締めた。

「今から僕が言うことは、全部、本気です。
先生も、そのつもりで聞いてくれますか」

俺は、そんなに重大な用件なのか、と内心身構えた。
そして、こいつが、”実は僕、宇宙人なんです”と生真面目な顔で言い出さないことを祈った。

「わかった」

俺は警戒しながらも、一応うなずいておいた。
嫌な予感がしたが、ここまで来て追い返すのもかわいそうだ。
しかし、ミルダが言った言葉は、拍子抜けするようなものだった。

「僕、先生のことが、好きなんです。尊敬もしてます」

「……なんだ、いきなり。何も出んぞ」

本当に、いきなりなにを言い出すのやら。
俺はそのとき、妙に真剣な顔をしているミルダを、
恥ずかしいやつだな、ぐらいにしか思っていなかった。

「そういう好きじゃなくて」

ミルダが、いらだったように湯飲みを横にどかして、テーブルに手を付いた。
俺は身を乗り出したミルダの様子に驚いた。
そして、次にやつが言った言葉に、その100倍は驚いた。

「先生に交際を申し込みに来たんです」

「……は?」

空気が音を立てて凍りつく。
と感じたのは俺だけのようで、ミルダの目は熱っぽかった。

「交際をお願いしに来たんです、先生に」

聞き返したと思ったのか、ミルダが繰り返した。
俺の脳は半分以上機能停止していた。

「好きです、先生。男として、先生のことが好きなんです」

「…………」

「あなたに出会ってから、僕は毎日、悶々とした日々を過ごしていました」

「そうか…」

俺はロボットのように、機械的に相槌を返した。
うまく思考が働かない。なんだって?夢か?リアルな夢だな。だいぶ疲れている。
しかし、夢ではなかった。
ミルダが、ほとんど睨むような真剣な目つきで、俺を見詰めていた。

「毎晩、先生のことを思い出しました。僕は、誰に言われなくても、すぐに気付いた。
これは一目ぼれだって。もう一度だけでも、先生に会いたくて会いたくてたまらなかった…!」

語気に力がこもる。すらすらと言えているあたり、練習をしたのだろう。
ミルダの部屋をあされば、原稿が出てくるかもしれない。
俺は半ば放心して、現実感を失った頭の片隅で、そんなことを思った。
ふっと、ミルダがアンニュイなため息をついた。その目が、にぶく憂鬱にくもる。

「先生の姿を探して、何度もあの駅前に行きました。雨の日も、台風の日も…。
あなたと似た服の人をみるたび、似た声を聞くたびに、僕は期待して、そして落胆した」

こいつは一歩間違うとストーカーになるタイプだな、と俺は確信した。
俺は口を閉じることが出来ないまま、ミルダを見詰めていた。
というか、眺めていた。

「あのとき、先生が渡してくれた傘は!僕の胸に!ぐさりと音を立てて突き刺さったんだ!」

ミルダが両手の拳を握り締め、熱弁した。
そうか。大変だったな。全治何ヶ月だった?
よくぞそこまで元気に回復したものだ。
日本の医療のクオリティの高さに感謝せねばならんだろう。

「リカルド先生!いや、リカルド!……さん!」

もはや絶叫という勢いで、ミルダが叫んだ。
テーブルのわきに手を付いて、四つんばいで俺につめよる。
なんだ、次はなんだ。俺は耳をふさぎたい衝動をすんでのところでこらえた。
俺は台風にさらされたかかしのように、ミルダが詰め寄った分、背をそらしていた。

「あなたが好きです!大好きです!心の底からっ!全身全霊!命をかけて!」

ん、そうか、ありがとう。俺もお前のことは嫌いではないぞ。
熱心でかわいい生徒だと思っている。
あくまでも教え子として。

「だから、僕と付き合ってください!お願いします!」

「…どこまでだ?」

「は?」

「一時間ぐらいなら付き合ってやるぞ。カラオケか?」

「いや、その付き合うじゃなくて…」

だったらなんだ。俺は頭をこねくりまわした。
付き合う…つきあう…突き合う?俺の頭の上に電球が浮かんだ。
あぁそうか、突き合うのほうか。

「俺は剣道三段だぞ」

「それ、マジボケなんですか?」

「いや……すまん。いきなりすぎて……な……」

分かっている。本当は分かっている。
今、俺は愛の告白をされているのだ。講師に行った学校の、”男子生徒”に。
俺はじわじわとパニックになっていた。
指が震えて、顔がひきつる。
この辺りで、アニーミが”ドッキリでした”という看板を持って出てこないかと期待したが、
残念なことに、部屋の中には俺とミルダ以外の人影は見当たらなかった。
俺はこわごわとミルダの顔をうかがった。
戦地に赴く武士のような形相だった。俺はおもわずつばを飲み込んだ。

「ミルダ。一応確認をしておくが……。お前は……その、なんだ……ゲイ…だったのか?」

その若さで。と、続く言葉を俺は言わずにおいた。
ミルダが慌てて首を振る。

「違います!普通に、女の子が好きです!昔から女の子が好きだから!
小さい頃からイリアみたいなタイプが好みでしたから!」

そうだな。お似合いだな。
だったらアニーミに交際を申し出ればいいだろうが。

「ってそうじゃなくって…、性別の枠を越えて、先生は僕の心に飛び込んできたんです。
僕は、真剣です。遊びのつもりはありません。結婚も考えています。それぐらい好きなんです」

ミルダが俺の手をさりげなくとって、にこりと笑った。

「だから…僕と付き合ってください」

周囲に花畑が浮かぶ幻覚を、俺は見た。
いや、実際に花が咲き乱れていた。
この男やもめ丸出しの部屋の中で、ミルダの表情は輝いていた。
希望に溢れた表情だ。
緊張しながらも、どこか自信を持っている。
まるで断られることなど想定していない笑顔だ。

だが、俺は当然、こう言った。


「いやだ」

「えっ!?」

ミルダの周囲の花畑が消えうせた。
かわりに、驚愕と絶望がその顔をおおう。
俺の手を離し、力なく尻餅をついた。

「なんで…」

声が震えていた。
そして、はっとしたように叫んだ。

「僕が男の子だからですか…!?」


俺は頭を抱えた。
比喩ではなく、本当に抱えていた。


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