監禁8






俺の精神はいよいよ危ない状態にさしかかっていた。
ベッドの上に座ったまま、日がな一日宙を眺めてぼうっとしている。
セレーナが部屋に入ってきても気が付かないことが多くなった。
ひどいざまだった。
食事のときになっても、俺はベッドから降りようと思いすらしなかった。
セレーナはそんな俺を叱ることはなく、ベッドまで飯を持ってきて、
俺の隣に腰掛け、かいがいしくスプーンを俺の口に運んだ。
食事が終わった後、よく襟が汚れていた。知らんうちに口からこぼれているらしい。
それだけならまだいいが、ここ最近、俺はものが食べられなくなっていた。
全身の傷口が化膿し、熱を持っていて、食欲がわかない。
セレーナは固形物をやめて腹に優しいものを作ってくれるが、あまり意味がなかった。
俺は無理矢理スープを胃に収めようとして、その度に吐いた。
汚れたシーツと俺の着衣を代えながら、セレーナが心配そうに、痩せた俺の体を見ていた。

それでもセレーナは毎日欠かさず俺を鞭打ったが、最近はその苛烈さも緩んだように思える。
それとも、ただ単に俺がにぶくなっただけだろうか。
鞭が切り裂く皮膚の痛みも、膿んだ火傷や鞭傷が衣服に擦れても、もうほとんど痛くなかった。
それでもセレーナが新たに俺の体に焼印を作るとき、俺は痛みに泣いた。
もう涙をこらえる意地も気力も吹き飛んでいて、俺は子供のように純粋に泣き叫んだ。

セレーナのことは、あいかわらずおそろしかった。
しかし、俺はもう、セレーナがいなくては生活ができないレベルに陥っていた。
セレーナはしばしば家を空けた。最近外出することが多いようだ。
自由を噛み締めることはなかった。
俺は彼女がいない間、寂しくて仕方がなかった。
セレーナが訪れても、ろくに会話も交わさないというのに、
彼女がいなくなれば、さびしさに心が張り裂けそうになる。
セレーナが怖い。だが、セレーナがいなくては生きてさえいられない。
俺は今やはっきり、彼女を恋しがっていた。



朝食が終わり、俺を着替えさせてシーツを取り替えてから、セレーナは去った。
俺は、行かないでくれ、と弱く懇願したが、セレーナはやることがあるから、と行ってしまった。
またぼうっとするだけの時間が始まる。
俺はめっきり本を読まなくなった。文字を見ても、もうよく意味が分からない。
グリゴリたちのことも考えられない。
セレーナのことばかり考えている。
その内、俺の中は全てセレーナだけで満たされてしまうだろう。
俺は自分が壊れかけていることを自覚した。

――だが
俺の足の間に、”ルカ”が小さな体を割り込ませてきた。
新しいシーツの上で、気持ちが良さそうにくつろいでいる。
俺は”ルカ”を見るたび、ミルダのことを思い出せた。
この小さな猫だけが、俺をつなぎとめる最後の縄だった。

「卒業おめでとう」

俺は正気を失いかけるたび、その言葉を口に出した。

「卒業おめでとう」

繰り返し呟いてみる。
少しだけ、正気が戻ったような気がした。
ミルダ、卒業おめでとう。ミルダ。ミルダ。セレーナ。セレーナ。セレーナ。

「卒業おめでとう」


誰の卒業を祝うんだった?





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